ふと思い出す、あの一言
経営者として、リーダーとして、あるいは一人の人間として。これまでの人生を振り返ったとき、ふと心に浮かぶ言葉はありませんか。
上司に言われた何気ない一言が、今も自分の背中を押してくれている。
恩師からの励ましが、困難に直面したときの支えになっている。
そんな経験をお持ちの方は、決して少なくないはずです。
人は、他者からの言葉によって変わります。たった一言が、人の人生を劇的に変えてしまうことさえあります。そして、そうした言葉を「ターゲットストローク」と呼びます。
ターゲットストロークとは何か
ターゲットストロークとは、心理学の用語で、相手の胸に深く突き刺さり、その後の人生を支えるほどの影響力を持つ言葉のことを指します。単なる「お疲れ様」「よく頑張ったね」ではありません。
相手の本質を見抜き、その人にしか当てはまらない価値を言語化した言葉です。
たとえば、あなたが部下に「君のあの粘り強さは、この組織に欠かせないものだ」と伝えたとします。それが的確にその人の核心を突いていれば、その言葉は単なる称賛を超えて、相手の自己認識に影響を与え、今後の行動指針となるのです。
なぜ今、ターゲットストロークが必要なのか
現代の職場では、パワハラ問題が大きく表面化しています。感情的な叱責や一方的な否定が招くリスクは、もはや経営者として無視できるものではありません。しかし同時に、部下や社員を育てるためには、ただ優しく接するだけでは不十分です。
ここで重要なのが、ターゲットストロークという視点です。相手を深く観察し、その人の強みや本質を見抜き、それを言葉にして伝える。このプロセスこそが、人を本当の意味で育てることにつながるのです。
パワハラとターゲットストロークは、対極に位置します。前者は相手を否定し、支配しようとする行為ですが、後者は相手を肯定し、その可能性を信じて引き出す行為です。組織を強くしたいなら、後者の力を磨いていくことが重要です。
どうすればターゲットストロークを見つけられるのか
ターゲットストロークを見つけるには、まず相手をよく観察することから始まります。普段の仕事ぶり、困難に直面したときの対応、チームでの立ち振る舞い。そうした日常の中に、その人にしかない強みが潜んでいます。
そして大切なのは、「できて当たり前」と思っていることに目を向けることです。いつも期限を守る几帳面さ、周囲に気を配る思いやり、黙々と作業を続ける集中力。それらは一見地味に見えますが、その人の核となる価値です。それを言語化して伝えることで、相手は「自分はこれでいいんだ」という自信を得られます。
また、失敗したときこそチャンスです。ミスをした部下に対して、ただ叱責するのではなく、「あなたがこれまで培ってきた丁寧な仕事ぶりを知っているから、今回のミスは意外だった。きっと何か理由があったんだろう」と伝える。こうした言葉は、相手の本質的な価値を認めながら、改善を促すことができます。
経営者こそ、言葉の力を使いこなす
経営者は常に決断を迫られ、時には厳しい指摘をしなければなりません。しかし、厳しさと否定は違います。相手の本質を見抜き、その人にしかない価値を認めた上で、さらなる成長を促す。それがリーダーとしての真の役割です。
ターゲットストロークは、決してお世辞や社交辞令ではありません。相手をよく観察し、その人の核にある強みや魅力を見出し、それを正確に言語化する。この作業には、洞察力と誠実さが求められます。
そしてそれは、組織全体の信頼関係を築く基盤となります。
社員が「自分は見られている」「自分の価値を認められている」と感じられる組織は、強い。
なぜなら、人は信頼されることで、初めて本当の力を発揮するからです。
今日から始められる実践
ターゲットストロークを実践するために、まずは身近な人を一人選んでみてください。そして、その人の強みを3つ書き出してみる。できれば具体的なエピソードと共に。「あの時、こういう対応をしていたのが印象的だった」「いつもこんな風に周囲に配慮している」といった形です。
次に、それを本人に伝えてみましょう。わざわざ改まる必要はありません。
日常の会話の中で、「そういえば、君のこういうところ、すごくいいよね」と一言添えるだけでいいのです。その一言が、相手の心に深く残り、やがて組織全体の雰囲気を変えていきます。(照れくさいですけどね!🥲)
言葉が組織を創る
最後に、一つ覚えておいていただきたいことがあります。それは、組織は言葉によって創られるということです。どんな言葉が飛び交う職場なのか。それが、組織の文化を形作り、社員の行動を規定します。
否定的な言葉ばかりが飛び交う職場では、人は委縮し、本来の力を発揮できません。
一方で、相手の本質的な価値を認め、可能性を信じる言葉が飛び交う職場では、人は成長し、組織全体が活性化します。
あなたの一言が、誰かの人生を変えるかもしれない。そして、その人の変化が、組織全体に波及していくかもしれない。
言葉には、それだけの力があります。

